「中医臨床 Vol.17-No.3」より
●インタビュー●

中医学を一般の常識にしたい
2100人が参加する通信講座「お母さんの漢方教室」

吉祥寺・東西薬局 猪越恭也先生に聞く(抜粋)

編集部  先生は24年ほど前から、日本への中医学導入の草分けとして活躍していただいてきました。 『中医臨床』の創刊の時には先生に非常に力を入れていただき、「冠心U号方」を最初に解説していただきました。 それが今日の「冠元顆粒」に発展していったわけですが、その後、ひきつづき中成薬の日本への導入・普及にご尽力いただいてきました。 さらには「お母さんのための漢方教室」を企画されております。漢方教室のその後の経過をうかがわないまま、もう10年以上 たちましたが、今日は、一般の人々に中医学を普及されていることに関して、お話をうかがいたいと思います。

●お母さんたちにこそ理解してほしい中医学
 私は薬局店頭の漢方相談、中医学相談をやってきまして、家庭の主婦こそ日本の医療を支えていく中心的な存在になるだろう、 ということを強く感じていたわけです。
 日本の家庭では、今まで身体のことはお医者さん任せで、自分は一切何もやらない。「生兵法は大怪我のもと」などといって、消極的な向きが強かった。 しかし、そうではないんではないか。医者任せにしていると、医療自体がひずむし、結局自分たちがひどいめに遭う。 やはり自分たちが勉強せにゃいけない、またそれができると信じたわけです。

●成人病のかなりの部分をカバーできる お血 の概念
 現代医学ではあまりはっきり認識していないことが、中国医学では非常にはっきり認識しているというものが、いくつかあるんです。
 その筆頭が、お血の概念ですね。俗に言えば「血液サラサラ」です。お血という概念は現代 医学にはない。多少あるとしても高脂血症ぐらい。お血という概念で、血栓とか梗塞など全身至る所に発生する病体を 治療しておこうという発想は現代医学にない。現代医学においては、みなバラバラ病気なんですね。中医学では 全体を包括できるお血という概念があり、治療方法があるわけです。更に予防法まである。
 血液をきれいにするということによって成人病の予防と治療がかなり可能になっている。しかも、成人病は 、病院ではどうしようもないものなんですね。医者が毎日つきっきりで、食事指導から生活管理まで出来やしないですよ。 ということはやっぱり自分でやらにゃいかんのです。そのときにお血という概念があるかないかによって がらっと変わってきてしまう。食事を含めて、運動をやる意義も、お血の概念があればはっきりしてくる。

●老化防止のための腎虚の概念
 腎虚という概念は江戸時代には日本人にもあった。いつの間にか消えてしまって、今日にはない。だが、 これは非常に大事です。なぜかというと、骨粗鬆症と関係する。そして耳や目のような聴覚・視覚と関係する。 これはまさに老化そのものですよ。骨・骨髄と腎の関係については、中国人が長い歴史をかけて得てきたものを 、現代医学はカルシウム代謝のメカニズムとしてもう証明しています。「腎は骨を主る」ということに関しては、 現代医学でもまさしくそうだと認めたわけです。つまりビタミンD3の活性が、腎臓なくしてはできないということです。
 だから、腎の概念はやはり非常に大事で、これも決してわかりにくくはない。これは老化現象の基本的なものです。 つまりお血とかさなって老化がいよいよ進む。だからそこを知ることによって、老化防止の対策が立てられる。 これはお血概念と共に、いよいよこれからの世紀において欠かせない2大柱です。

●ストレスに対して疏肝理気の概念
 人間はストレスと対応しながら、賢くなっていく面もあるので、ある程度は必要ですが、ストレスに 負けちまうこともある。ストレスに負けやすい人とはどんな人かというと、肝気鬱結の状態にある人ですね。 これは心身医学の基本なんです。精神的な緊張が持続すると、中国医学的にいう五臓のうちの肝の負担になる。 そこで悪循環が始まる。肝の力が落ちる、つまり疏泄能力が落ちると、問題処理能力が落ちる。 これはストレスに弱い状況をつくる。そして肝の疏泄が悪くなれば体内のいろんな生理機能が低下する。 これは諸々の心身症のもとになる。不定愁訴とか、消化性潰瘍とか不眠症とか、ノイローゼとか、現代医学 ではあまり得意としない、精神安定剤なんかにたよっている領域です。これでは本質的治療にはなりゃしない。 これは現代医学の非常な弱点ですね。これに対して中国医学は肝気鬱結、疏肝理気という概念と治療体系を しっかり持っていて、肝を強化するための知恵があります。

●「やさしい家庭中国漢方講座」
 私どもでは、「やさしい家庭中国漢方講座」という通信講座の全国組織を主催しています。1992年に スタートしまして、全国の主婦を中心に2,100人の会員が参加しています。
 テキストの第1冊目は入門コースになっています。図解を中心にして極力わかりやすく書いてあります。 陰陽五行説から臓腑弁証まで、中医学の基礎理論をわかりやすく解説するとともに、関連した常見病に対する 対応策が書いてあります。2冊目は中級コースで、3冊目の上級コースは生薬と処方の解説をしています。 たとえば葛根湯とか銀翹散だとか。それから毎月1回スクーリングをやっています。
 そのほか、毎年、通信講座の会員で中国研修旅行をやっています。こういう活動も薬局と患者さんの 結びつきを強めます。

●加藤登紀子さんと全国トーク&ライブ
 最近ではイベントとしては、全糖連(全日本糖尿病患者連盟)という、歌手の加藤登紀子さんのご主人の 藤本敏夫さんが中心になっている患者組織なんですが、ジョイントしようということになりまして、5回ほど トーク&ライブというのを企画して全国を歩いてきました。動員は全糖連と日本中医薬研究会、家庭漢方普及会 の加盟薬局が担当しました。有楽町のマリオンから始まって、大阪の堺、札幌、名古屋、仙台、計5カ所です。 小さいところは600名ぐらい、大きいところは1400名くらい、ほとんど満杯でしたね。

●指導薬局の役割
 「家庭中国漢方普及会」を組織しまして、全国の中国医学を勉強している薬局の呼びかけましたら、 130の薬局・薬店がこの普及会の指導薬局・指導薬店になりましょうと申し出て下さいました。
 すでに自分の薬局主催による大衆講演会を始めている薬局もぼつぼつ出てきています。人に教えるということは 自分の勉強になります。ぜひ積極的にやってほしいと思っています。
 こういう活動を通じて、患者さんとのコンタクトは非常に深まってきます。薬局薬店は患者さんから信頼される かかりつけ薬局薬店になる必要があると思うのです。昔は主治医、家庭医というのがありましたが、今や 個人診療所というのがどんどんなくなっていって、大病院化しています。家庭の医療コンサルティングをやるところ がなくなりつつありますね。だから、そこにこそ、薬局薬店の今後果たしていく役割があるわけです。いま、そういう方向を 目指して頑張っているところです。

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